ご馳走旅日記
雪国の春を呼ぶ伝統発酵食品
その名に納豆とあるものの、実際には異なる存在。味わいは味噌に近く、新たな調味料としてのポテンシャルを秘めた、東北の伝統発酵食と出会いました。
“雪割納豆”
長い冬ごもりから解放された雪国の春の風景「雪割り作業」は、降り積もった圧雪を掻き分ける様子を表しています。その情景は、早春の活気と喜びを象徴するものであり、「雪を割って春を呼び込む」という縁起の良い言葉が名前の由来。ルーツは、江戸時代から山形県米沢市で作られてきた”五斗納豆”。当時は度重なる飢饉への備えや、4~5月の農繁期に食べる保存食として、各農家が正月のこたつの温もりを利用して、ひきわり納豆に米麹と塩を混ぜて発酵させていたもの。この伝統を受け継ぎ、10年前に商品化したのが”ゆきんこ”です。
工場は小さな市場の脇にひっそりと佇んでいます。案内してくれた佐野さんは、可愛らしいロゴに描かれた「Old is new」の文字に込めた伝統を尊びながら新たな価値を生み出す思いと、製法へのこだわりを熱く語ってくれました。
二度の発酵が生む唯一無二の旨味
納豆といえば茨城県水戸市を思い浮かべる方も多いですが、水戸納豆の歴史は戦後に始まり、小粒納豆が品種改良の成果として誕生したのがきっかけですが、実はそれ以前から、東北地方では納豆が日常的に食べられていました。現在では全国で容易に手に入る納豆ですが、東北、新潟、富山など雪国では古くから食文化として根付いていたそうです。
雪割納豆は、山形県産の原料にこだわり、手間と技を尽くして作られています。まず、大豆を炒ってひきわりにし、表皮を丁寧に取り除いてから浸水し蒸します。次に、厳密な温度管理が施された室で発酵させ、その後、米麹と塩を合わせた塩切り麹を混ぜ合わせ、樽に仕込んで重石をのせ、さらに発酵と熟成を進めます。熟成を終えた後は低温で保存。この二度にわたる発酵過程こそが、雪割納豆の独自性を支える製法の要となっています。
納豆汁、納豆炒飯、納豆混ぜ蕎麦といった、納豆の風味を活かした料理が美味しいことは容易に想像できます。しかし、あえて納豆らしさを前面に出さず、それでいて唯一無二の深い旨味を引き出すレシピを生み出すことこそ、シェフたちに課された挑戦ではないでしょうか。鮎醤や肉醤など、近年の洋食に欠かせない隠し味として注目される発酵食品に肩を並べる存在になりうる…そんな期待感を胸に抱かせる訪問となりました。