ご馳走旅日記
ー 宮崎・木城町「黒木本店」
明治18年創業。蒸留釜から一滴の焼酎が滴ったその瞬間から、黒木本店では手作業にこだわった焼酎づくりが続けられてきました。
焼酎づくりは、米や麦などの原料を蒸し、麹菌の力で糖に変え(糖化)、酵母による発酵、そして蒸留という工程を経て完成します。
黒木本店では、その一つひとつの過程に、代々受け継がれてきた技と独自の工夫が込められていました。
まず印象的だったのは、原料を蒸す工程で使われる桶。
一般的にはステンレス製の機械が使われることが多い中、黒木本店では、宮崎の杉で組んだ木桶を用いています。
木が余分な水分をやさしく吸い取ってくれることで、原料が蒸気でふやけすぎず、風味がしっかりと残るのだそうです。
確かに、蒸し上がったときの香りもどこか柔らかく、やさしい印象でした。
糖化に欠かせない麹づくりも、丁寧に管理されています。
使われる白麹や黒麹は、原料のでんぷんを糖に変えると同時に、クエン酸という酸を生み出します。
この酸が、温暖な気候の中でも雑菌の繁殖を抑えてくれることで、発酵が安定して進むのだそうです。
「温度センサーひとつでは、わからないこともあるんです」
そう言いながら、蔵人の方が麹の香りを確認していた姿が、特に印象に残っています。
焼酎づくりの最後の工程である蒸留では、熱を加えることで香りが凝縮されていきます。
柑橘のような香りが立ちのぼる瞬間、麦の香ばしさと重なり合い、焼酎としての個性が形づくられていました。
機械やステンレスを使えば、衛生的で作業効率も良くなります。
けれど黒木本店では、人の手と感覚でしか捉えられない“わずかな違い”を大切にしながら、日々の仕込みを重ねていました。
そうして出来上がった焼酎を口にした瞬間、広がる香りと深みのある余韻に、心がふっとゆるむ。
丁寧に仕込まれた一杯の中に、蔵人たちの五感とこだわりが、静かに息づいているのを感じました。